システム選定の進め方と評価基準
システム選定は、企業の成長戦略や業務効率化を大きく左右する重要なプロセスです。本記事では、選定の流れやRFI・RFPの活用法、適切な評価基準までを体系的に解説。適切なベンダー選定とROI向上を実現するための意思決定に必要な知識と実務的なポイントが得られます。
1. システム選定が重要な理由
1.1 企業の成長と環境変化に伴うシステムの更新
近年、企業を取り巻く環境は急速に変化しています。グローバル市場の拡大、リモートワークの定着、規制や法改正の頻発、さらにはAIやIoTなどの技術革新が進む中で、業務システムに求められる役割も高度化・多様化しています。こうした環境に迅速に対応するためには、既存システムの限界を正しく見極め、新たなニーズを満たすシステムへの更新が不可欠です。
たとえば会計システムや販売管理システムなど、基幹業務を担うシステムは、古くなるほど維持コストや障害リスクが高まり、業務効率や社員の生産性にも悪影響を与えます。またWindows OSのサポート終了やクラウド化への移行など、IT環境全体の変化に伴って既存システムの利用継続が困難になるケースも増えています。
そのため、システム選定は単なる導入プロセスではなく、中長期的な経営戦略としての意味合いを持つ重要な意思決定と位置づける必要があります。特にERPやCRMなどの全社的システム導入では、影響範囲が広範に及ぶため、早い段階で選定の準備を始めることが成功につながります。
1.1.1 主なシステム更新の要因
要因 | 内容 |
---|---|
技術的な老朽化 | 保守サポート終了、システム性能の劣化、互換性の問題などが生じる |
業務プロセスの変化 | DX推進による業務フローの見直しや新サービスとの統合ニーズ |
法制度の改正 | インボイス制度、働き方改革関連法、電帳法対応などに伴う対応 |
経営統合や事業再編 | M&A後の統合システム導入、部門間連携の強化など |
人材確保・育成 | 業務属人化の解消、ナレッジの定着、在宅勤務を支える環境構築 |
1.2 適切なシステム選定が業績に与える影響
適切なシステム選定によって、企業の事業運営がどのように改善され、収益向上へと結びつくかは数多くの実例から証明されています。たとえば、クラウドERP導入によって業務プロセスの自動化が進み、月次決算の迅速化や在庫管理の最適化が実現された企業もあります。
また、パッケージソフトでは対応が難しい自社業務に対して、柔軟性の高いSaaSやローコード開発環境の選定により、コストを抑えながら独自性の高い運用が可能になったケースも報告されています。
逆に、要件定義が不十分なまま場当たり的にシステムを導入した結果、本来の業務フローに合致せず再導入の必要に迫られた事例もあります。日経XTRENDの記事では、ERP導入時の失敗事例として「現場の意見を反映せずに導入が進んでしまい、結果として業務効率が下がった」ケースが紹介されており、システム選定の重要性がよくわかります。
このように、業務適合性・拡張性・コストバランス・将来の戦略との整合性を十分に考慮した選定が、業務効率の向上や経営課題の解決に直結します。適切な選定がなされたシステムは、単なるツールではなく、企業の成長を支える基盤となり得るのです。
2. システム選定の流れ
2.1 要件定義と目的の明確化
システムを選定する際の第一歩は、導入目的や業務ニーズを明確にすることです。目的が曖昧なままでは、候補となるシステムの比較が困難になり、後工程での軌道修正が発生しやすくなります。
通常、以下のような観点から要件を洗い出します。
- 現行業務の課題と改善したいポイント
- 業務プロセスの標準化や効率化の必要性
- 関連システムとの連携要件
- セキュリティ・ガバナンス上の制約
- 部門間で異なるニーズやKPI
この段階では、現場との綿密なヒアリングを行い、「As-Is(現状)」と「To-Be(あるべき姿)」を可視化することが非常に重要です。
2.2 RFI(情報提供依頼書)の作成と活用
要件を整理したら、次はマーケットに存在するソリューションの把握に進みます。そのために活用されるのがRFI(Request for Information:情報提供依頼書)です。
RFIは、ベンダーに対して製品・サービスに関する基本的な情報を提供してもらうための文書で、候補となるシステムを網羅的に把握するためのツールです。RFIの記載内容には以下が含まれます。
- 企業紹介と業務概要
- 現状の課題と解決したいテーマ
- 想定している導入スケジュールと予算レンジ
- 求める機能要件と非機能要件(例:性能、拡張性、保守性など)
この段階では全ベンダーと深く比較検討するのではなく、多数の候補を把握して絞り込みの指標をつくることが目的です。
2.3 RFP(提案依頼書)の作成と提出依頼
RFIによって候補がある程度絞り込めたら、正式に提案を募集するためのRFP(Request for Proposal:提案依頼書)を作成します。
RFPはRFIよりも詳細で、各ベンダーに対して企業課題をどう解決するか、どのようなシステム構成・コスト・導入スケジュールになるかといった具体的な提案を求めるものです。
以下は一般的なRFPに含まれる内容です。
項目 | 内容 |
---|---|
導入背景 | 現状の業務課題や目的、プロジェクトの前提条件 |
機能要求 | 求められる機能リストと業務シナリオ |
非機能要求 | パフォーマンス、セキュリティ、可用性など |
制約条件 | 予算、導入時期、連携する他システムの要求など |
提案内容 | システム構成案、導入スケジュール、導入・運用体制、概算費用 |
このフェーズでは、IPA(情報処理推進機構)などの公的機関が公開しているテンプレートを参考にすると、抜け漏れなくRFPを作成することができます。
2.4 システムベンダーからの提案収集
RFPを送付した後、⼀定期間内にベンダーからの提案書を受け取ります。提案書には、導入スケジュール・価格・機能提供範囲・人員体制などの詳細情報が含まれます。
この段階で確認すべきポイントのひとつは、「ベンダーの実績と信頼性」です。たとえば次のような情報です:
- 同業他社での導入事例の有無と規模
- ISO/IEC 27001など、情報セキュリティに関する認証の取得状況
- 保守・運用フェーズでのサポート体制(24時間365日対応の有無など)
また、提案された機能と実装予定のロードマップが、自社の成長戦略に合致しているかどうかも見極める必要があります。
2.5 提案内容のプレゼンテーションとヒアリング
提出された提案書の内容を正しく理解し、質疑応答を通じて疑念を解消するために、ベンダーによるプレゼンテーションとヒアリングの場を設けます。
この場では以下のような点に着目します。
- 提案内容のロジックが自社の課題と整合しているか
- 担当チームの専門性と実績
- UI/UXの使用感(実際の画面イメージを提示してもらう)
- 見積もり金額の根拠と明確性
また、可能であれば開発リーダーやPMOの責任者を出席させ、実際にプロジェクトを動かすメンバーとの相性や対応能力も確認しておくと、導入後のトラブルを未然に防げます。
このプレゼンテーションやヒアリングに基づき、形式的な提案内容だけでなく、ベンダーの本気度や将来性を見極めることができます。
3. ベンダー提案の評価方法
3.1 評価項目の設定
ベンダー提案を評価する際は、まず事前に策定した要件定義をもとにした評価項目を設定することが重要です。これにより、各提案内容を公平かつ論理的に比較検討する基準が明確になり、ヒューマンエラーや主観的な判断を排除できます。評価項目には、以下のような要素を含めるべきです。
評価カテゴリ | 具体的な評価項目 |
---|---|
機能要件適合性 | 業務要件への対応度、カスタマイズの有無、将来拡張性 |
非機能要件 | セキュリティ要件、可用性、レスポンスタイム |
導入実績・信頼性 | 国内での導入実績、同業他社での採用状況 |
操作性・UI | ユーザビリティ、管理画面の使いやすさ |
運用・保守面 | 体制、サポート手順、障害対応速度 |
3.2 スコアリングを活用した客観的評価
評価項目が設定された後は、スコアリングシートを用いた定量的評価が有効です。各ベンダー提案を数値で評価することで、主観的な評価誤差を減少させることができます。例えば、0~5点のスケールを使い、各評価項目に点数をつけます。また、項目ごとに重要度(ウェイト)を設定することも推奨されます。以下に例を示します。
評価項目 | 配点(ウェイト) | ベンダーA | ベンダーB |
---|---|---|---|
機能要件の適合度 | 30点 | 28点 | 24点 |
UIの使いやすさ | 20点 | 18点 | 20点 |
コスト対効果 | 25点 | 20点 | 22点 |
導入実績 | 15点 | 12点 | 14点 |
サポート体制 | 10点 | 9点 | 10点 |
合計 | 100点 | 87点 | 90点 |
このように、スコアリングにより定量的な判断材料が得られ、意思決定の納得感が高まります。
3.3 デモやPoC(概念実証)の活用
提案内容の妥当性を検証するためには、デモンストレーションやPoC(Proof of Concept)の実施が効果的です。PoCは、実運用に近い環境でベンダーのシステムが本当に要件を満たすかを確認するプロセスです。
特に、業務プロセスの複雑さや特有性が高い場合、PoCによって中心機能やインターフェース、既存システムとの連携部分などをテストすることが推奨されます。ユーザー部門からも担当者を参加させ、実際の業務に即した評価視点を取り入れることが重要です。
たとえば、販売管理システムのPoCでは、見積書の作成から受注、納品までの一連の流れを模擬して動作検証した企業もあります(参考:ITmedia キーマンズネット:販売管理システム選定の失敗を防ぐ「PoC」の活用とは)。
3.4 コストとROIの検討
コスト面に関する評価では、導入費用やライセンス費だけではなく、運用コスト、保守契約料、教育費、さらには機能追加に発生する費用も含めたトータルコスト(TCO)を算出する必要があります。
また、ROI(投資対効果)の観点も欠かせません。たとえば、業務効率がどれほど向上するのか、人件費がどの程度削減されるのか、売上増加に貢献する可能性など、具体的な数値シミュレーションをベンダーに提示させ、それを比較することが求められます。ROIの算出例として、次のような式が用いられます:
企業ごとの業務内容や規模によって大きく異なるため、自社に合ったROIモデルを設計する必要があります。
3.5 成功事例との比較分析
最後に、有力な評価手段として、同業種内外での成功/失敗事例との比較があります。ベンダーから提供される導入事例の中で、業種、業態、企業規模、課題感が近似している企業の事例を参照することで、具体的イメージが掴みやすくなります。
例えば、「食品製造業における販売管理システムの導入事例」や「流通業界での在庫管理最適化」などのケーススタディを調査すると、自社にとって重要な施策の成功要因を見出せます。中立的な第三者メディアの記事や業界展示会の講演資料も信頼性が高い情報源として活用できます(参照:MONOist:在庫最適化のためのIT活用で収益改善を実現した事例)。
ベンダー提案に含まれる事例は、単なる自慢話やセールスツールではなく、自社への適用可能性やリスク回避の視点で客観的に読み解く力が求められます。
4. まとめ
システム選定は企業の成長や市場変化に柔軟に対応するために不可欠です。要件定義からRFI・RFPの活用、ベンダー評価手法としてスコアリングやPoCが有効であることが分かりました。導入後のROIや過去の成功事例との比較も重要な判断材料となります。富士通やNEC、日本IBMなど信頼できるベンダーと連携し、客観的かつ戦略的に進めることが成功への鍵です。
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